ウロコ体験

 僕がまだ1年生だった頃の話しです。
 ある日部室でF原さんとギターの話しをしていると、F原さんが
「Y口、Cの押さえ方でFを鳴らす方法を知ってるか?」
と当時の僕にはまったくもって理解不能なことをおっしゃるので、いったいぜんたいどんなカラクリを用いればそんな手品みたいなことが可能なのか、F原さんに質したことがありました(だってFっていったらあの指がつりそうになる押さえ方以外ないと思っていましたから)。
 するとF原さん、「こうすればいいのさあ」と、1〜3フレットで押さえているCのフォームを、そのまま5〜7フレットにスライドさせるではありませんか。そして・・・、
”ぼろろろろろ〜ん”
F原さんにより奏でられたその音は、間違いなく、ちょっとおしゃれなFの響きでありました(1弦が開放ミ、3弦が開放ソが鳴っているから厳密にはFmaj7add9thとなるため)。


 目からウロコという言葉があるけれど、あの時落としたウロコの枚数は、おそらく僕の人生でも1、2を争うでありましょう。あの瞬間、ウロコの落としすぎでおそらく僕の体重は2〜3キロ軽くなったでありましょう。
 「ギターのコード イコール コードブックに載っている押さえ方」という固定観念に凝り固まっていた僕にとって、
「同じフォームでも、横にスライドさせるだけで違うコードになる」
「オープンCに限らず、オープンDやGだって2フレットずらせばEやAになる」
という新知識は、ほんとうに新鮮、かつ衝撃的でありました。
 

 そういえば、齢を重ねるごとに、このような「ウロコ体験」がめっきり少なくなったような気がします。ちょっと寂しいといえば寂しいですね。