男子寮のおもいで(1)

 僕が1年のときに住んでいた首里の男子寮の正門前には、毎朝8時過ぎになると必ず何台かのトラックが集まってくるのでした。いったい何のために集まるのかというと、その日の労働力を欲している雇い主の人が単発のアルバイターを確保するため。
 「○○組」だとか「○○建設」などと書かれたトラックから降りてきたおっさんが、おもむろに「お〜いっ、こっち2人!2人!」だとか「こっち3人!」などと声を上げれば、あらかじめ今日の仕事にありつこうと正門前に待機していた学生たちは我先にとトラックに駆け寄るのでした。基本的には早い者勝ちで、決まった順にトラックに載せられ、いろんな現場に連れて行かれます。
 当然、現場には楽な現場もあればきつい現場もあるわけで、学生たちは瞬時にその見極めを行わなければなりません。会社名やトラックの状態やおっさんの顔などと、現場のきつさには何の相関関係もありません。あんまりぐずぐず迷っていると仕事にあぶれるし、だからといって軽々に決めるのもこわいし・・・、ということで、決断のタイミングもけっこう難しいのでした。
 僕も何度かこのアルバイトをしたけれど(一度はY師寺とも行ったなあ。覚えてるか?)、たしかに仕事はきつかった・・・。でも炎天下での肉体労働を終えた後のコーヒー牛乳一気飲みだとか、涼しい木陰で一服するハイライトなど、まさに五臓六腑にしみわたる至福の瞬間でありました。「おれ労働してるなあ」という充実感にどっぷりひたれたし、いったいどこに連れて行かれるんだろうというスリルも味わえたし・・・。これで1日5,000円、ラッキーな現場に当たればプラス弁当。
 あそこは我々琉大生だけでなく、いつも寮内をうろうろしているホームレスの人たちにとっても仕事にありつく貴重な場でした。人手が欲しい人と仕事が欲しい人とが簡単に何の手続きも要らず出会える手軽な場でした。その男子寮も'84年に閉鎖、今では立派な芸大になりました。
 ひょっとしたら今でも朝になると芸大の正門前に「お〜いっ、こっち3人!」などと威勢のいい声が響きわたり、芸大生が「は〜い!」なんて応答してる・・・てそんなことあるわけないか。