お弁当屋さんの小さな女の子

 コンサート実行にあたって避けられない「周辺業務」のひとつにパンフレットの広告取りという仕事がありました。僕らの頃でたしか一枠5,000円くらい。これを出演バンドにいわばノルマのように割り振っていたと記憶します。
 僕はこの「営業」の仕事がどうも苦手で、お願いに行くところはいつも決まっていました。それは宜野湾高校の近くにある小さなお弁当屋さん(店名失念)で、ここのご主人とおかみさんはいつお願いに伺っても「頑張ってよ」のひとこととともに気持ちよく広告の出稿を快諾してくれたのでした(ほんとうにお世話になりました)。
 このお弁当屋さんについては今でも忘れられない光景があります。例によって「君うた」パンフの広告をお願いにいったときのこと。いつものようにご主人とおかみさんが一生懸命弁当をこしらえているその横で、狭い店内の片隅の床で、小さな女の子(5歳くらい)が熟睡しているではありませんか。いかにも、かまってほしかったのにお父さんとお母さんの仕事が忙しく、諦めてそのまま寝入ってしまったという風情・・・。ご主人とおかみさんは、娘さんが店の床で寝入っているのも気づかないくらい忙しいのに、僕がお願いした広告掲載については、嫌な顔ひとつせず優しく応じてくれたのでした。
 あれから20有余年。そのお弁当屋さんの暮らしぶりは、決して豊かではなかったと推察するけれど、いつも額に汗して美味しいお弁当をこしらえるご主人とおかみさんの一生懸命な背中を眺めて育ったであろうあの小さな女の子、今頃きっと気持ちの優しい女性に成長しているであろうことは想像するに難くないところなのであります。