野外ステージのおもいで(2)

 野外ステージの建築作業もいよいよ大詰めというある晩のこと。東の方角から一人の無表情男が全速力でまっすぐに僕らのいるステージの方へ駆けてくるではありませんか。たったったった。
 すると次の瞬間、無表情男は僕らのいるステージのちょうど真下あたりで突然“ザシャ〜ッ”と豪快にこけてしまったのでした。そのこけ方というのがまさしくアルファベットのYの字そのまま、見事といえばあまりに見事でした。無表情男はそのYの形のままおそらくは2メートルほど地面をスライドしたでしょうか(だってすごい勢いで走ってきたんですもの)。
 しかし無表情男は痛がりもせず恥ずかしがりもせず、まるでこけたのが当然であったかのようにそのまますっくと立ち上がり、走ってきたときと同様の無表情、速度、方向を保持したまま、遠く西へ走り去っていったのでした。たったったった。
 う〜ん、あの男はいったい何だったんだろう・・・。衿と胸ポケットのついたいかにもおっさんという雰囲気の長袖シャツにおっさんズボン、たしか履き物はぞうりというおおよそ80年代の大学生とは思えないさえない風情。ひょっとしたらあの無表情男、今も夜な夜なキャンパスを走っていたりして。たったったった、ザシャ〜ッ、すっく、たったったった・・・。ひぇえっ、怖っ。